2021年1月6日

初春の令月にして氣淑く風和ぎ梅は鏡前の粉を披き/旅人

八重咲きしら梅 2020.12.31 上州藤岡上落合

八重咲きしら梅 2020.12.31 上州藤岡上落合

梅花の歌三十二首 序を并せたり

天平二年正月十三日に帥そちの老おきなの宅いへに萃あつまりて、宴會を申ひらきき。
時に初春の令月れいげつにして、氣淑よく風和やはらぎ、梅は鏡前きやうぜんの粉ふんを披ひらき、蘭らんは珮後はいごの香かうを薫かをらす。加以しかのみにあらず、曙あけぼのの嶺に雲移り、松は羅うすものを掛けて盖きぬがさを傾け、夕ゆふへの岫くきに霧きり結び、鳥は縠うすものに封こめらえて林に迷まとふ。庭には新蝶しんてふ舞ひ、空には故鴈こがん歸る。
ここに、天を盖きぬがさとし、地を坐しきゐとし、膝ひざを促ちかづけ觴さかづきを飛ばす。言ことを一室の裏うちに忘れ、衿ころものくびを煙霞えんかの外に開く。淡然たんぜんに自みづから放ほしきままにし、快然くわいぜんに自みづから足る。
若もし翰苑かんえんにあらずは何を以てか情こころを攄のべむ。詩に落梅の篇を紀しるす。古いにしへと今とそれ何ぞ異ならむ。宜しく園の梅を賦ふして聊いささかに短詠を成すべし。

天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 促膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠

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