2019年10月30日

天飛ぶや… 207 & 208 & 209 巻第二 万葉集

柿本朝臣人麻呂、妻みまかりし後、泣血哀慟きゅうけつあいどうして作る歌 短歌を并せたり

207天飛あまとぶや かるの道は 我妹子わぎもこが 里にしあれば ねもころに 見まくしけど やまず行かば 人目をおほ数多まねく行かば 人知りぬべみ さねかづら 後も逢はむと 大船おおぶねの 思ひ頼みて 玉かぎる 岩垣淵いはかきふちこもりのみ 恋ひつつあるに 渡る日の 暮れゆくがごと 照る月の 雲かくるごと 沖つ藻の なびきしいも黄葉もみぢばの 過ぎてにきと 玉梓たまづさの 使の言へば 梓弓あづさゆみ おとに聞きて 言はむすべ むすべ知らに おとのみを 聞きてありえねば わが恋ふる 千重ちえ一重ひとへも 慰もる 心もありやと 我妹子わぎもこまず出で見し かるいちに 我が立ち聞けば 玉だすき 畝傍うねびの山に 鳴く鳥の 声も聞こえず 玉桙たまほこの 道行く人も ひとりだに てし行かねば すべいもが名呼びて そでぞ振りつる

208秋山の黄葉もみぢを茂み まとひぬる妹を求めむ山路やまぢ知らずも

209黄葉もみぢばの散りゆくなへに玉梓たまづさの使を見れば 逢ひし日思ほゆ

1 件のコメント:

ふーちゃん さんのコメント...

柿本朝臣人麻呂妻死之後泣血哀慟作歌二首 并短歌 207, 208, 209

207 天飛也 軽路者 吾妹兒之 里尓思有者 懃 欲見騰 不已行者 入目乎多見 真根久徃者 人應知見 狭根葛 後毛将相等 大船之 思憑而 玉蜻 磐垣淵之 隠耳 戀管在尓 度日乃 晩去之如 照月乃 雲隠如 奥津藻之 名延之妹者 黄葉乃 過伊去等 玉梓之 使之言者 梓弓 聲尓聞而 将言為便 世武為便不知尓 聲耳乎 聞而有不得者 吾戀 千重之一隔毛 遣悶流 情毛有八等 吾妹子之 不止出見之 軽市尓 吾立聞者 玉手次 畝火乃山尓 喧鳥之 音母不所聞 玉桙 道行人毛 獨谷 似之不去者 為便乎無見 妹之名喚而 袖曽振鶴
あまとぶや かるのみちは わぎもこが さとにしあれば ねもころに みまくほしけど やまずゆかば ひとめをおほみ まねくゆかば ひとしりぬべみ さねかづら のちもあはむと おほぶねの おもひたのみて たまかぎる いはかきふちの こもりのみ こひつつあるに わたるひの くれぬるがごと てるつきの くもがくるごと おきつもの なびきしいもは もみちばの すぎていにきと たまづさの つかひのいへば あづさゆみ おとにききて いはむすべ せむすべしらに おとのみを ききてありえねば あがこふる ちへのひとへも なぐさもる こころもありやと わぎもこが やまずいでみし かるのいちに わがたちきけば たまたすき うねびのやまに なくとりの こゑもきこえず たまほこの みちゆくひとも ひとりだに にてしゆかねば すべをなみ いもがなよびて そでぞふりつる

208 秋山之 黄葉乎茂 迷流 妹乎将求 山道不知母
あきやまの もみちをしげみ まどひぬる いもをもとめむ やまぢしらずも

209 黄葉之 落去奈倍尓 玉梓之 使乎見者 相日所念
もみちばの ちりゆくなへに たまづさの つかひをみれば あひしひおもほゆ