ハコベラ・春の七草『植物記』
ハコベラはナデシコ科のハコベである。このハコベラはこの草の昔の称えであるが今でも稀れにこの古名をそのまま呼んでいる地方もある。国に由るとアサシラゲともいわれる。支那名は繁縷であるがそれはこの草が容易によく繁茂する上にその茎の中に一条の縷、すなわち維管束がある所からこの名が生れたのである。
秋に種子から生え冬を越して春最もよく繁茂し小さい白花が咲いて実が出来る。花弁は元来五片であるがその各片が深く二裂しているのでチョット見た所では十弁の様に見える。果実には柄がありそれが面白い事には花の済んだ後、次第次第に下に向い成熟間際になって復た上を向きそのままで果皮が開裂し中から種子が飛んで出る。これは多分この草が風に吹揺れる拍子に種子を果中から振り散らすのであろう。もし果実が下を向いたまま開いて種子が落ちたのではその行き度る範囲が狭いので、そこで上を向いて開裂し種子を成るべく広い面積地に散布させようというこの自然の工夫は確かに一顧の価がある。
茎も葉も一様に緑色である。多数の茎は一株から叢出して四方に拡がり梢に分枝して花を着けている。茎面には一側に一条を成して細毛を生じている特徴がある。葉は卵形で対生し葉柄が無い。しかし下方の者は卵円形で葉柄がある。
世間ではこの草を金糸雀の餌にする事は誰れでも知っているだろう。またこの草を焼いて灰と成し、塩を交えてハコベジオと称する歯磨き粉を製する。
この草は煠でて浸し物と成し食べられるが一種特別な風味があってすこぶる珍である。
一種ウシハコベという者がある。形ちもズット大きくハコベより後れて花が咲く。花の大さも形ちも同じだが花中に五本の花柱があるので三本花柱のハコベとはこの点を観れば直ぐに区別がつく。このウシハコベは金糸雀には遣らない。
普通の人はハコベもウシハコベも一緒にしてハコベと通称しているが、昔はまずそんな状態であって後世始めてこれを二種に区別したものであろう。書物にもその両者を混同して一と成したものがある。
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