2024年6月17日

石見相聞歌/巻二 131-133 人麻呂

岩見相聞歌

柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首、并短歌

岩見国より妻と別れて上り来たりしときの歌

131 石見いわみの海 つの浦廻うらみを 浦なしと 人こそ見らめ 潟なしと 人こそ見らめ よしゑやし 浦は無くとも よしゑやし 潟は無くとも 鯨魚いさな取り 海辺うみべをさして 和多津にぎたつ荒礒ありその上に か青なる 玉藻たまも沖つ藻 朝はふる 風こそ寄せめ 夕はふる 波こそ来寄れ 波のむた か寄りかく寄り 玉藻なす 寄り寝しいもつゆしもの 置きてし来れば この道の 八十隈やそくまごとに よろづたび かへりみすれど いやとほに 里はさかりぬ いや高に 山も越え来ぬ 夏草の 思ひしなへて しのふらむ 妹がかど見む なびけこの山

132 石見のや高角山の木の間より
  わが振る袖を妹見つらむか

石見乃也いはみのや 高角山之たかつのやまの 木際従このまより 我振袖乎わがふるそでを 妹見都良武香いもみつらむか

133 小竹の葉はみ山もさやにさやげども
  われは妹思ふ 別れ来ぬれば

小竹之葉者ささのはは 三山毛清尓みやまもさやに 乱友さやげども 吾者妹思われはいもおもふ 別来礼婆わかれきぬれば